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保障措置

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保障措置の目的

現在、私たちは、ウラン235、プルトニウム239などの核分裂性物質が核分裂を起こす際のエネルギーを電気エネルギーに換えて利用しています。しかし、これらの核分裂性物質は核兵器にも使用することが可能であるため、平和目的にのみ使用されていることを確認するために「保障措置」が適用されています。

保障措置という用語は、IAEA憲章第3条においてはIAEAの任務として規定されていますし、日本が米国などと締結している二国間原子力協力協定にも使われていますが、これらの憲章や協定にはその定義などは規定されていません。一般的には「原子力の研究開発利用を平和目的に限って行うために、ウランやプルトニウムのような核物質が核兵器などに使用されていないことを確認するとともに、万一、これらの核物質を核兵器などに利用しようとしても、早期に発見し、核兵器の製造を未然に防ぐための措置のこと」とされています。

日本に適用されている保障措置

1.二国間原子力協力協定

日本は、核不拡散と平和利用の確保を目的として、また、核物質の供給や原子力利用を円滑に実施するために、2024年6月時点で、14か国(米国、英国、カナダ、豪州、仏国、中国、カザフスタン、韓国、ベトナム、ヨルダン、ロシア、トルコ、アラブ首長国連邦及びインド)及び1機関(欧州原子力共同体)との間でそれぞれ二国間原子力協力協定を締結し、核物質の平和利用、核物質等の移転の規制、保障措置の実施及び資機材等の必要な管理を行っています。特に、協定を締結した相手国から移転された核物質が日本において平和利用のためだけに利用されていることを保証する保障措置は、原子力の相互協力のための最も重要な前提条件のひとつとなっています。

日本が原子力を開発した当初は、核物質のみならずほとんどすべての原子力関連物資を外国からの輸入に頼っていたため、この二国間原子力協力協定に基づく保障措置が最初に日本で実施されました。

IAEAの設立からしばらくの間は、もっぱらこの二国間原子力協力協定に基づく保障措置が日本に対して適用されていました。

このような二国間原子力協力協定に基づく保障措置の実施権限は、IAEAの保障措置制度の整備に伴い、段階的にIAEAに移管されていきました。日本においても、1961年のIAEAの保障措置制度に関する文書(INFCIRC/66/Rev.2)が作成されINFCIRC/66タイプの協定に移管することに合意した後、このINFCIRC/66タイプの協定に基づいて、二国間原子力協力協定によって供給された核物質、設備などを対象としたIAEAによる査察が実施されるようになりました。しかし、これは、あくまでも二国間原子力協力協定の当事国がIAEAに保障措置の権限を移管することによって初めてIAEAによる査察の実施が認められるものだったのです。

なお、INFCIRC/66タイプの協定には含まれない二国間原子力協力協定の権利義務関係は、それまでどおり二国間原子力協力協定に基づき実施されていました。

2.NPTに基づく保障措置

1970年に核兵器の拡散を防ぐことを目的にNPTが作られたことにより、NPTに加入した非核兵器国は、第3条の規定に基づくIAEAと包括的保障措置協定を締結して保障措置を受け入れなければならなくなりました。日本は、昭和51年(1976年)にNPTに加入し、昭和52年(1977年)にNPTに基づく保障措置協定(INFCIRC/153タイプの包括的保障措置協定)を発効させました。この包括的保障措置協定は、締約国内のすべての核物質を対象としたものであるため、これまで二国間原子力協力協定及びその権限を移管したINFCIRC/66/Rev.2により実施対象となってきた核物質のほとんどは、このIAEAの包括的保障措置協定の対象となりました。

なお、二国間原子力協力協定による日本の義務には、INFCIRC/66タイプの協定のときと同じように、INFCIRC/153タイプの保障措置ではカバーできないものもありますので、その部分については現在でも二国間原子力協力協定に基づいて実施されています。

追加議定書の受諾

先に見たように、1990年代に入りIAEA保障措置を強化するための議論が活発に行われ、1997年に追加議定書(INFCIRC/540)がIAEA理事会で採択されたことにより議論が終了し、実施の段階に移りました。このIAEA保障措置の強化について早くから議論に参加し、保障措置の強化を支持していていた日本は、追加議定書の実施の受入れ準備のため、国内法整備及び各関連事業者への説明会開催などを行い、平成11年(1999年)12月16日、世界で8番目に追加議定書を発効させました。これに基づき、日本は、情報の提供、IAEAによる補完的なアクセスの受入れなどを積極的に行っています。

統合保障措置の適用開始

統合保障措置とは、包括的保障措置協定と追加議定書による保障措置手段の「最良の組合せ」により、これまでの保障措置の効果を維持しつつ(一部は向上させ)、効率を向上させるというものです。IAEAの保障措置の強化策により業務量が増加し、「最良の組合せ」による“統合”を検討し、より効率的な保障措置活動を実施することが求められるようになったことが導入の背景にあります。

 統合保障措置が導入される以前の従来の保障措置では、その規準は、原子力施設の種別及び施設が取り扱う核物質によって決められ(施設レベルアプローチ)、それが各国に共通して適用されていました。この従来の枠組みでは、IAEA保障措置の査察活動は、多くの原子力施設及び核物質をもつ国に集中することになり、核拡散のリスクが高い国々に対して査察活動をより多く割り振ることができません。統合保障措置には、限られた査察活動資源を核拡散防止のためにより効果的に使うため、INFCIRC/153第81条を法的拠り所に国レベルアプローチという概念が適用されています。

この概念では、その国の核燃料サイクルの構造、核燃料サイクル関連の研究及び開発の内容、機微な原子力関連資機材の製造及び輸入、並びに国内保障措置制度の有効性等の因子を考慮して国全体の核拡散リスクが評価されます。統合保障措置では、原子力施設の特質の他これら国特有の因子が考慮されます。

IAEAは毎年6月に開催される理事会において、前年にIAEAが実施した保障措置活動報告・評価を行うとともに、それに基づく結論を報告しています。2003年に日本に対して実施したIAEA保障措置の結果、日本に未申告の核物質及び原子力活動を示す兆候はなく、また、申告された核物質の転用を示す兆候もないと評価され、日本における核物質はすべて平和利用にとどまっていたとの保障措置結論(拡大結論)が導出されました。この結論を受け、平成16年(2004年)9月15日から日本に対し統合保障措置が段階的に適用されています。

国レベルの概念

近年の世界的に見た原子力活動の拡大に伴い、2010年以降で約14%以上の核物質量が増加し、IAEAの保障措置業務量が拡大しています。そのため、保障措置の実施をこれまで同様効果的効率的に行うために、1990年代から言われてきた「国全体(State as a whole)」で国の核物質及び原子力活動を検討するという「国レベルの概念(State level concept)」という考え方が2013年あたりから言われるようになりました。これは、新たな義務の導入ではなく、保障措置の法的基盤である保障措置協定及び追加議定書の権利義務を超えるようなものではなく、より効果的に保障措置目的を達成するために各対象国にテーラーメードの国レベルのアプローチを構築し、実施し、評価していくプロセスを示しています。

具体的には保障措置目的は、転用、施設のミスユース及び未申告の核物質及び原子力活動を検知するという3つの各国共通の目的で、これらを達成するためのその国の核燃料サイクルや原子力関係の能力、リモートモニタリングの利用などの保障措置技術の適用状況などの6つの国特有のファクターの適用性などを考慮して技術的な目的やそれを達成するための保障措置手段の選択が行われることにより、適用される保障措置が決定されます。

日本に対しては、この国レベルの概念に基づいて日本への国レベルの保障措置アプローチ(State level approach, SLA)がIAEAにより開発され、国全体の技術的目的などを規定した部分がIAEA内部で了承されたのち、国全体の目的に照らして現在各施設に適用されている統合保障措置アプローチの見直しが今後行われる予定です。