核セキュリティの概要
1.核セキュリティの出現
2001年9月11日に米国内で航空機等を用いた4つのテロ事件が同時多発的に発生した。航空機が使用された史上最大規模のテロ事件であり、全世界に衝撃を与えた。この事件が契機となり、これまで使用されていた「核物質防護」から「核セキュリティ」という言葉が使用されるようになった。
2.核セキュリティの定義
IAEAでは「核セキュリティ」の定義を「核物質、その他の放射性物質その関連施設およびその輸送を含む関連活動を対象にした犯罪行為又は故意の違反行為の防止、検知および対応」とした。
この定義から、核物質防護では、規制の対象が核物質であったが、核セキュリティにおいては、核物質のみならず放射性廃棄物も規制の対象である。例えば、テロリストによる原子力施設への妨害破壊行為や、放射性物質を封入した爆弾(ダーティボム;汚い爆弾)により放射能汚染といった飛散行為などへの関心が高まり、核セキュリティが広く使用されるようになった。ただし、核物質に着目した場合は、核物質防護という言葉が使用される。
3.「核セキュリティ文化」について
IAEAは核燃料サイクル施設および関連活動を通じて、国による核セキュリティ文化についての実際的な開発と向上の支援活動を実施している。
我が国においては、これまでは、「特定核燃料物質の防護に関する業務に従事する者の職務および組織」の中心は、核物質防護管理者であった。しかしながら、核物質防護管理者が事業所における核物質防護上の課題を認識し、経営責任者と共有していても、必要な経営資源が投入され速やかな課題の対応に繋がらない状況があった。
一方、安全の分野においては、法的にすでに経営責任者の関与が規定化されており一定の効果を上げてきたことから、核物質防護の分野においても、経営責任者の関与が必要であるとの判断から、核物質防護規定に経営責任者が核セキュリティの文化醸成に関与することが盛り込まれている。
(1) 核セキュリティ文化の意義
「核セキュリティ文化」は、原子力組織に携わる人々(役員から一般従業員まで)が核セキュリティを確保するための信念、理解そして日ごろの習慣について話し合いその結果を実施し根づかせていくものである。
原子力規制委員会では、平成27年1月14日付、原子力規制委員会決定の「核セキュリティ文化に関する行動指針」をホームページに掲載しております。
(2) 核セキュリティ文化に影響を及ぼす要因
原子力安全文化、核セキュリティ文化または現場における協力的文化のいずれにおいても、文化に影響を及ぼす要因は基本的に同じである。それらは、以下に示す要因により構成されている。
- 信念、原則および価値観
- 脅威や危険の特徴
- 文書化された期待と行動
原子力安全文化を向上させる活動に関する手法の多くは、核セキュリティ文化にも関連している。原子力安全および核セキュリティにおける規律は、安全で確実な操業を維持するために重要な役割を果たし、密接につながっている。
4.IAEA核セキュリティ・シリーズ文書
IAEAは、核セキュリティ・シリーズ文書を2011年から検討・作成しており、現在も継続して行っている。これら文書体系は、図2のような位置づけである(詳細は、IAEAのホームページを参照ください)。
図2 IAEA核セキュリティ・シリーズ文書体系
5.核セキュリティ・サミット
1. 背景
米国同時多発テロ(2001年9月11日)以降、国際社会は新たな緊急性を持ってテロ対策を見直し、取組みを強化してきた。2009年4月、オバマ米大統領がプラハ(チェコ)において演説を行い、核テロは地球規模の安全保障に対する最も緊急かつ最大の脅威とした上で、核セキュリティ・サミットを提唱した。サミットにおいては、首脳レベルで核テロ対策に関する基本姿勢や取組状況、国際協力の在り方について議論している。
2. 経緯
- 2010年4月12日、13日、ワシントンD.C.(米国)において核セキュリティ・サミット開催。
- 2012年3月26日、27日、ソウル(韓国)において核セキュリティ・サミット開催。
- 2014年3月24日、25日、ハーグ(オランダ)において核セキュリティ・サミット開催。
- 2016年3月31日、4月1日には、ワシントンD.C.(米国)において開催。
第1回~第4回までの核セキュリティ・サミットの各概要やコミュニケ等については、外務省のホームページを参照ください。